2009-11-23-Mon-23:28:24

1533年10月20日 コインブラ 晴れ
なんでこんなことになってしまったのだろうか?
私にはさっぱり理解できない。
先日張り出したカレンの「果たし状」にも吃驚したけれど、それに応じる人がいたことにさらに驚いた。
前の晩から説得し続けた私を引きずるように、カレンは中央埠頭に出向いた。
しかも、昼から。
指定したのは夕方なのに。
待つこと数時間。
仁王立ちする姉への忠告も出尽くした頃、その男は本当にやってきた。
以前カレンが「炎のような鶏のような」と言っていた意味がやっとわかった。
この界隈を根城とするチンピラ、グラシエルロ。
伝説の格闘家の一番弟子だとか、3年戦争に従軍していた英雄だとか、いつもおなかを空かしているとか、コインブラの裏通りでは有名らしい(もちろん何れも定かではない)。
「我が名はカレン・ララ・フェスタ! 貴様がグラシエルロか!?」
「おうよ。命知らずの女っていうのはお前か?」
(もし本当に)彼が現れたら仲介しようと思っていたのに口を挿む暇もなかった。
カレンは音吐朗々たる大きな声でこの決闘の意義を告げた。
一言でいえば「食い逃げの仇討」なのだが。
おかげで道行く人々が集まってきた。
水夫、漁民、商人、開拓家門……。
それに「果たし状」を見て集まった野次馬たちでちょっとした人だかりができた。
いま思えば、官憲に捕まらなかったのは幸運だった。
素姓のわからない人間の集まる港町だからだろうか。
滞在する開拓家門が多く、喧嘩や決闘は日常茶飯事だったのかもしれない。
(いや、それでも中世じみたやり方は姉くらいのものだろう)
「エモノは?」
「俺はいつだって喧嘩殺法さ」
「おもしろい。徒手空拳なら無益な殺生をせずに済む」
「“殺法”だって言ってんだろ」
カレンはそう言いながら剣帯を外し、私に放った。
これで私も部外者のフリができなくなってしまった。
「決闘」は酷いものだった。
ただひたすらに殴る蹴る。
まるで闘牛を観ているかのような歓声の中、姉と男が殴り合う。
新大陸に来て強くなったつもりだったが、残念ながら私にはどうにもできなかった。
止めるには騎兵中隊か野砲のどちらかが必要だったはずだ。
小半刻ほど殴り合っていただろうか。
お互いの拳が空を切るようになった頃、カレンが笑い始めた。
ついに大事な何かを傷つけてしまったかと思ったら、グラシエルロも笑いだした。
ふたりはよろめきながら肩を支え合うと、沈みゆく夕日を眺め、健闘を称え合った。
はじめはきょとんとしていた観客もとい野次馬から拍手と称賛が浴びせられた。
私にはよくわからないうちに、私にはよくわからない方法でふたりは和解した……らしい。
カレン曰く「意外といい奴だった」とのこと。
グラシエルロ曰く「女にも本当の漢がいるんだな」とのこと。
やはり私にはよくわからない。
兎にも角にも、リサさんへの支払いはカレンが肩代わりすることになり、グラシエルロは武者修行に出るという。
どうしても腑に落ちないが、当人たちは納得したらしい。
野次馬の人々にも評判がよかった(私たちは興行主ではないのだから喜ぶ理由にはならない)。
「お前は己が道を行けば良い。我らは開拓前線へ行く」
「ピンチの時は泣いて助けを呼べ。俺が助けに行ってやる」
別れ際の彼の言葉が心強かったのだけは認めてもいい。
今度会うときは、私も何かわかりあえるかもしれない。
今、カレンは痛みに呻きながら横になっている。
傷には片っぱしから消毒薬をかけて手当てしたから大丈夫だろう。
消毒するたびにカレンは悲鳴を上げた。
リサさんが心配して部屋を訪ねてきたけど、「大丈夫です! 何でもありません! 何でもないんです!」と言い張った。
次からはもっとマシな言い訳を用意しておこう。
あれほどの強打を受け、これほど傷ついたにも関わらず、姉の悲鳴を聞いたのは初めてだ。
私にはさっぱり理解できない。
テーマ:グラナド・エスパダ ジャンル:オンラインゲーム